――これはね。 あたしの最後の、マスターのお話。 あたし達のいるこの世界には、古くからの言い伝えがあるの。何でも、世界には ……あ。 有りがちな話だって、思ったでしょう? ええ、きっとね、何処にでもあるような有り触れたお話なのかもしれない。確かに、そうなのかもしれないの。 でも。 でもね。 あたしにとっては、特別なお話なの。 ……だって。 だってこれが、あたしにとっての……。 あたしの横で、かちゃかちゃと鍵をいじっている青年。 彼が、今のあたしのマスター。 緑色のぼさぼさの髪に、鼻の上にちょこんと乗っかっている丸メガネ。どちらかと言ったら、大人しそうな顔立ち。ひょろひょろの小柄な身体に黒いローブを着込んで、胸には十字架を象ったペンダント。全身黒尽くめだから、色と言ったら髪の色とペンダントの金色ぐらいのモノなのよ。ここら辺、もうちょっと何とかならないかなっていつも思うわ。 正直、お世辞にも頼り甲斐がありそうには見えない、そういうニンゲンなの。ノエル=プラムシェイプって言うヒトは。歴代のマスターを思い出してみても、ノエル程頼り無さそうに見えたマスターはそうそう思い浮ばなかったぐらい。 ま、見た目、の話ではあるんだけど。 そんな彼でも、あたしは嫌いじゃないわ。 だって、退屈だけは、しないんですもの。 ――それって。 とっても、ステキな事だと思わない? |