遠い昔、有名な偉人につかわれていた杖。それがオレである。
 しかし、その偉人はもうとっくの昔に殺された…それからオレは…どこか暗いところへ閉じ込められてしまった…
 ここはどこだろう…あれからもう何年もたっているようなきがする…
 ひょっとしたらオレはもうすぐ死んでしまうのかもしれない…って死ぬ!?
 オレは嫌だ。まだ生きていたいんだ。!誰でもいい!誰かオレを起こしてくれ…早く、早くっ!手遅れにならないうちにっ!
 心の中で叫んだとたん、オレの体は水のような感触に包まれていった。
 なんだろう…この不思議な感触。気持ちくて…ひんやりしていて…生まれて初めて感じる感触…何かが起こりそう…何か大きな事が…
 オレの予想は的中した。水の感触が完全に消えた時、オレに手が生えていたのだ。足が生えていたのだ。顔があったのだ。体があったのだ。
 そして、それらはすべて自分の思うとおりに動かす事が出来た。そう、オレは人型になっていたのだ。
 これは一体!?な、何が起こったんだ!?ま、それは置いといてどーやったらここから出られるんだ?おっ!あそこから光が…とりあえずあそこに行ってみるか…
 オレは隙間から一筋の光が差し込んでいるドアを右手でそっと触れ、軽く押してみた。ドアは簡単に開く事が出来た。
 その瞬間オレの目に眩い太陽の下に無限に広がる草原が飛び込んでくる。オレは一体何があったかのかは理解できなかったが、たったひとつだけ理解したがある。
 それはオレは今、闇の世界から抜け出す事が出来たと言うこと…と、その時っ!
「キャァアアアッ!」
 背後から女性の甲高い声がオレの耳に届いた。オレがすぐさまふりかえるとその女性は、ガタガタと震えてさらにこう叫ぶ。
「メイスの杖がっ!ば、化け物っ!!!!」
 メイス…?誰だそれ?ひょっとしたらオレの事なのか?そうか、オレはメイスっていうのか。うん、そういう事にしておこう。


 そう考えてたら、いつのまにかオレはどこからかやってきた兵士達にいつのまにか取り囲まれていた。その兵士達の中から黒いローブを身につけたで妙な女がオレに、だんだんと近付いてくる。
「お前は…メイスだな…そうか、お前の魔力は目覚めたのだな。私のことを忘れたとは言わせんぞ…」
 誰だ…こいつ。何か見た事のあるような気がする…何者なんだ!こいつは…!くそっ!頭がわれるように痛んでくる…ここはとりあえず逃げるかっ!
 オレは強く地面を蹴り、わずかに空中に浮かんだ。
 そして、オレはその場から飛んで逃げた。
 オレ自身もなぜ自分が兵士達に追われてるのか、あの男は一体誰なのか。
 自分は何者なのか、自分は何故空を飛べるのかが分からなかったが今はとにかく、がむしゃらに逃げる事しか出来ない。
 ハァッ…ハッ…ハッ…ハァ…。ううっ!息が苦しい。死にそうだ…
「逃がさんぞ。メイス!」
 くそっ!オレが何をしたんだっていうんだ!あいつら、まだ追っかけてきやがる!こりない奴らだ。
 ん…まてよ。オレ確か魔法の杖で…呪文が使えたような気が…呪文…確か闇の魔術だったよな…なんていったっけ。えーと。えぇっとぉ…たーしーかー!  メイス・ザ・モッグ・ダーク!!!
 オレがそう唱えたとたんドドドドドド…!!と地面が揺れだした。
「な、何だっ!これはっ!」
「地震かっ!」
 兵士達の小さな声がかすかに聞こえるが、これは地震ではない。
 兵士達は慌てて取乱しているがオレはこの先どうなるのか知っている。
 オレは、空高くまで飛び、上から兵士達を見下ろした。
 その兵士達の中には、もちろん黒ローブのアイツもいる。そしてアイツはオレを見上げていきなり笑いだした。
「なるほど。そういう作戦か。」
 そうアイツが言い終わった後、地面がメキメキメキメキ…ズシャ!と音を立てて枝がズダズダになった大木が無限に生えてくる。
「うわぁああっ!」
「ひぃぃぃ!」
 グシャグシャと音を立てながら兵士達が次々に木に刺さり、赤黒い血が辺りに飛び散る。
 さきほどまで誇り高かった兵士達が醜い姿に変わっていくのをオレは顔を青くして見物していた。
 これが、メイス・ザ・モッグ・ダーク。闇の魔術といわれている呪文だ。
 本当はこんな呪文使いたくなんかなかったが、自分を守るためにやむをえなかった。
 おぉおおおおお…たくさんの兵士達の哀しい響きが痛いほどオレに伝わってくる。
 オレは思わず目をつぶった。兵士達の叫び声はどんどんと遠のいていく。
 しばらくすると呪文が切れ、大きな大木はどこかへ消えて去っていった。
 その木があった辺りには大勢の死体がまるでゴミのように散らばっている。
なんだかオレは急に怖くなった。オレがこんな光景を作った事が信じれなかった。
 下を見下ろすと埋もれた死体の中からスクッと立ち上がった奴がいた。
 それはまぎれもなく、黒ローブの…アイツだった。
「なっ!闇の魔術をくらったのに平気で…!!!」
 その光景は信じられないものだった。闇の魔術とは普通の人間…いや、普通の生物全てをぶっぱなすほど強力なものなのだ。
 なのにアイツ…平然と立っている!!!しかも、くそっ!笑ってやがる!!!
「…さすがだな。強き魔力の杖メイスよ。」
「お前は一体何者なんだ…」
 他にも聞きたいことはたくさんあったが自然と口からはこの質問しかあふれなかった。
「私か…?ふっ、よかろう…これが私だ…」
 アイツは身につけていた黒いローブを脱ぎ、床に落とすように投げた。
 アイツは長い水色の髪をしててその髪は首の辺りで銀色のひもでがっちりと結ばれている。
 まっすぐな瞳はギラリと光っていて、体には青色の布を巻いていて、手や足にはあちこち不思議な黒い模様が刻まれていた。
 右手にはヤリのようなものを抱えている。
 こんな人をどこかで見たこともあるような気がする…誰だ…いつだった…?
「じゃぁお前の名は…?」
 次にオレの口からでた疑問はこれだった。
「覚えてないのか…まぁ良い。私の名はDark。つまり闇…それだけのことだ。メイスよ。今回だけは見逃してやろう…だが、次に会った時は許さんぞ…かならず復讐は果たす…」
それだけ言い残してアイツはオレに背を向け、どこかへ駆け抜けていった。


 日も暮れて辺りは真っ暗になった。オレは一本道の先にあった森の中に入り込んでそのへんにあった紙切れを燃やした。
 何か必死でぬぐい書きしたような文字が並んでいたが、オレは何も考えずその紙も火の渦にほおリ投げる。
 パチパチパチ…ただただ火の音だけが森に響く。
 その火の中にオレは近くの川で捕まえた魚をほおりこんで焼く。
 オレは火が嫌いだった。熱いし…危ないし…でも火が燃える音は好き。
 パチパチと綺麗な音。ゴゥゴゥとなんだか力強くうなるような音。
 ただ丸太に座りながら魚を火の中にほおりこんでいただけだったはずなのに、いつの間にかオレの目からポタポタと涙がこぼれていた…
 青くもなく…白くもない…色のない涙。オレは腕でその涙を何度も何度もゴシゴシぬぐった。
 だけど涙は次々あふれだして止まらない…
 ちくしょう…止まれよ…!!こんな所で泣いていたってどうしようもないのに…!!
泣くつもりはない。なのにどんどん流れ出す涙。そんなオレの肩にポンッ。誰かの手が置かれた。
 驚きながらも振り返ってみるとそこには赤い髪の毛に魔女帽子を被った少女と剣を片手にしている茶色い小さな犬がいた。
「あ、あのっ…ど、どうか…したんですか…?」
 赤毛の少女が心配そうな表情を浮かべる。
「大丈夫か?目が赤く腫れてるぞ。」
 小さな子犬が見た目よりはるかに大人っぽく低い声でオレに駆け寄る。
「あぁ、ありがとう。たいした事は無いんだ。ところで…君達は誰?」
 オレが少女と子犬に問うと、ふたりにこりと微笑みながら答える。
「私は、シャル。ただの魔法学科学生です。」
「俺はロウ。王都騎士団団長だ。」
「そうか…オレの名は、たぶんメイス。えっと…魔法の杖さ。」
 オレがそう名のるとふたりは顔を見合わせて同時に叫ぶ。
「メイスって!!!!あの伝説の杖の…!!??」
「…オレって伝説の杖って呼ばれてたんか…」
「凄い…伝説のメイスの杖と出会えるなんて…!」
 ロウがとても嬉しそうに微笑む。
「ど、どうして今は人型なんですか!?なんで?ねぇ!なんで、なんで?」
シャルが手をあたふた動かしながらオレに聞く。
「…分からない。ただな、さっき兵士に追われていたんだ…その中にDarkっていう奴がいて…あ、そこの丸太に座りなよ。長い話になるから…」
 オレはシャルとロウを丸太に座らせ、なるべく詳しく謎の女Darkについて話した。
 Darkがオレの存在を知っていたこと…Darkが闇の魔術をくらっても平然としてたこと…Darkはオレに復讐すると誓ったことを…
 長い長いDarkの話を終えてから、一番最初に口を開いたのはシャルだった。
「Dark…どこかで聞いたような名前です。」
「シャルもか…実は俺もそんな気がする。」
 そう言い終わるとシャルとロウは何かを考えるみたいに再び黙りこんでしまった。
 パチパチパチ…カサカサカサ…サラサラサラ…
 火が燃える音、風が木の葉をくすぐる音、川の水が上流から下流へと行き渡る音だけがオレたちの耳に入る。
 長い沈黙が続いた…火が音も立てず静かに消えていく。風はどこか北のほうへと去っていく。川の水もどこかへ沈んでいってしまった…
 全ての音が失われた森の中で急にオレの口が勝手に動き始めた。体も勝手に立ち上がる。
「誰も分からねーのかよ!!!!オレはアイツに殺されるかもしんないのに!!!あぁ、そうか!お前らはオレなんてどうなってもいいと思ってるんだろ!!!ごもっともな意見だね!なら、オレは死んでやるよ!お前らのことを、じわじわと恨みながらな…!!!!」
 半分声にならない響でオレは叫んだ。オレの顔は泣きながらも酷く笑ってやがる…
 シャルとロウは声も出さずオレをじっと不安そうな目で見つめていた。
 空に浮かんでいたはずの月は黒い雲に覆われて、見えなくなっていた…


 しばらくたってようやくオレの気持ちが落ち着いて、オレは丸太に腰を降ろしてから今度はゆっくりと口を開く。
「そっか…分かんないよな。ごめん。シャルもロウも悪くないのに…オレ、勝手にひとりでキレて…すまない…。」
 オレは頭を低く下げてシャルとロウに謝った。
「頭…上げてくださいよ。私、全然気にしてませんから…誰だってそういうことありますし…ねっ。ロウもそうでしょ?」
「あぁ、そんなこと気にしてたらキリないしな。ほら…頭あげな。」
 シャルとロウの言う通りオレは頭を上げてふたりの顔を見つめた。
 ふたりは優しい表情をしていた。桜みたいに暖かくって、ひまわりみたいに元気な微笑み。
 そのふたりの顔を見たとたん、オレの目から再び涙が溢れ出す。
 だけど、さっきとは違う涙。淋しくて悲しくてどうしようもなく止まらない涙じゃなくて、嬉しくって嬉しくってたまらなくて溢れてくる涙。
 そんなオレの背中をシャルが優しくさすってくれた。ロウも優しい目でこっちを見ている。
シャルの手…ロウの目…あったかい…やわらかい…こんな感じ初めてだ…こんな暖かい空気…


 オレはいつのまにか眠っていたらしく、ハッと目を覚ますと目の前にはシャルとロウの寝ている姿が映っていた。
 しばらくオレはそんなふたりをじっと見つめてから丸太に木の枝で文字を刻み始める。
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 シャル。そしてロウ…ありがとう。君たちといてオレ、勇気が出たみたい。
 あのさ、オレあんな風にDarkに殺されることを恐れているよりも大切なこと分かったんだ。
 Darkのことを思い出して、このことにケリをつける。それが大切なんだって。 それとさ、オレふたりには悪いけどDarkを思い出すために旅に出ることにしたんだ。
 それが…一番今すべきことだって…そう思う。
 勝手に出てってすまない。ふたりにはとても感謝してる。…ありがとう。
 またいつか会える日が来ることを信じてる。

 ―メイス―
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 そうやってメッセージを書き終えるとオレはすくっと立ち上がって西を見つめた。
 西の空ではもう太陽が顔を出し始めている。
「さてと…そろそろ行くか!」
 オレは太陽の昇る西を目指して歩み始めた。太陽がオレの背中を暖かく照らしてくれている…


 ひとりの旅人が森を去ったあとひとりの少女は開いてこうつぶやいた。
「メイス…いってらっしゃい。またいつか会える日まで…Seeyouagein…」
 その少女につられるように1匹の犬が目を覚まして少女の服を小さくひっぱる。
「じゃぁ、俺達も行こうぜ。シャルの目指す魔法使いへの道へ…」
「うんっ!」
 少女の声が空いっぱいに広がっていく。
 その一声はいつまでもいつまでも青い空に広がったまま。
 そして今もずっとずーっと終ることの無い小さな響きは空に残っています…

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■ 妖精好様 ■

キャラ設定、オリジナルヴァージョンはこちらから≫メイス/ダーク/シャル&ロウ


[モドル]  [キカクトップ]  [ニジボシュウトップ]